サイトロンジャパンによる天体写真コンテストの第4回目となる、「サイトロンジャパン天体写真コンテスト2024」が開催。今回も約300作品と多数の応募がありました。厳正な審査を経て決定した各賞を発表します。
【コンテスト総評】
沼澤茂美
(天体写真家、イラストレーター)
今年もたくさんのご応募ありがとうございました。作品の対象は微光天体と太陽系天体、そして星空風景に大別されるのですが、とくに微光天体をとらえた作品に関しては、昨年よりもさらなる技術的な進化が見られ、撮影技法はほぼ似かよったところに落ち着いた感が強くありました。しかしながら、写真の評価は、技術的に優れていることなど、物理的に推し量れるロジカルなものだけではないことはたしかです。内面が引き込まれるような感動的な写真、撮影者の思いにとても共感できる作品、そのような作品がもっともっと出てきてほしいと強く感じた今回のコンテストでありました。
渡邉 晃
(サイトロンジャパン代表取締役)
たくさんの応募をいただき、ありがとうございました。天体写真部門は、回を重ねるごとにレベルが上がり、今回も甲乙つけがたい、すばらしい作品ばかりで審査にも頭を悩ませました。一方で星空風景写真部門は応募点数も少なく、作品レベル的にもう一工夫ほしい作品が目立ちました。機材の進歩により、誰でも星空風景写真を撮影できるようになった一方、独自の視点で表現を行なうことのむずかしさを感じました。来年も「あっ!」と驚く作品を期待しています。
渡邉 耕平
(サイトロンジャパン シュミット)
審査にあたり、過去の応募作品も拝見しましたが、特にU 29 賞の作品は回を重ねるごとに質が高くなっていると感じます。コンテストは他者と比較され優劣がつく一方、切磋琢磨できる貴重な機会です。若いユーザーの皆さんがこのコンテストを通じて感性や技術を磨き、これからの天文界をさらに盛り上げてくれることを期待しています。ファンの年齢の高まりがいわれる天体趣味の世界で、若いユーザーの活躍は明るい希望です。
【大賞】 平野義岳 / ケフェウス座分子雲とNGC6946
平野義岳(神奈川県川崎市 43歳)
ビクセンVSD90SSとフルサイズセンサーのカメラの組み合わせでNGC6946とB150が横並びに収まることに気付き、撮影してみました。画像処理では、銀河とそれを避けるように広がる分子雲の両立に苦労しましたが、どちらもバランスよく描写することができたのではないかと思います。
【評】沼澤茂美
今回の審査で、全員一致で推した作品が平野義岳さんのこの作品です。今日、淡い天体を撮影する技術が向上するに伴って「分子雲」という言葉が非常に多く用いられるようになりましたが、審査の段階では、その使い方についても意見が出ました。この作品には銀河面に広がる淡いガス雲が広がっていますが、その中にある冷たい星間物質の凝縮した部分、黒い筋状の部分が「分子雲」と考えられます。銀河面でありながら、はるか遠方に浮かぶ渦巻銀河が透けて見えている、そのみごとなコントラストが宇宙の深淵を感じさせる、すばらしい作品だと感じます。
【撮影データ】
2024年8月8日22時45分~ ビクセンVSD90SS(D90mm f495mm F5.5) D30mm f120mmガイド鏡+ZWO ASI120MM Mini+ASIAIRによる自動ガイド ZWO AM3赤道議 ZWO ASI6200MC Pro 総露出235分(5分×47コマ) BlurX Terminator、Star X Terminator、PixInsightほかで画像処理 撮影地/静岡県伊豆市
【天体写真部門賞】 新木 太 / M13
処理がむずかしそうで敬遠していた球状星団に、長焦点の光学系で挑みました。明るいところが飽和するのはあたりまえ、派手にならないように、強調は薄化粧という、いつもの私の画像処理で仕上げました。幅広い趣味に協力してくれる妻、ノウハウを教示してくれる会の仲間と遠征先でお会いする方々に感謝しています。
【評】渡邉耕平
新木 太さんの作品は、ピント、フラット、ノイズ処理など天体写真の基本的な要素の水準が高く、拡大して細部まで凝視したくなる仕上がりに感動しました。遠征しての撮影では、常にシーイングや天候が良いわけではなく、このレベルの作品を得るのは非常にむずかしいと感じます。天体写真のハイレベル化が進み、リモート観測所での長時間撮影などが増えるなか、この作品は、観測施設を持たないユーザーにとって目指すべき目標の一つといえるでしょう。
【撮影データ】
2024年6月13日23時49分~ 英オライオン製望遠鏡(D300mm)+Sky-Watcher F4 コマコレクター(合成f1200mm 合成F4) ZWO ASI290MM+PHD2によるオフアキシスガイド Sky-WatcherEQ8-R赤道議 ZWO ASI2600MC-Pro 総露出190分(5分×38コマ) PixInsightほかで画像処理 撮影地/山口県美祢市秋吉台
【星空風景写真部門賞】 溝口英則 / 濃霧のオリオン
いわずと知れた観光スポット「クリスマスツリーの木」。そんな有名なスポットも、辺り一面、深い霧に包まれたこの夜に限っては、来客は私一人。物音一つしない静寂が聴覚を深い霧が視覚を包み込み、現実から幻想の世界に誘われます。煌(きら)めく星ぼしはまるで、道標(みちしるべ)のようでした。
【評】渡邉 晃
北海道・美瑛の丘に佇む、有名な木をファンタスティックにとらえています。有名ポイントでの撮影で、独自性のある作品にするのは簡単ではありません。本作品では、雪積る夜の霧越しにオリオン座を配置し、空にグラデーション状にかかる霧がソフトフィルターとなり、恒星の色を強調してくれました。一面真っ白なモノトーンの世界に、まるでクリスマスのイルミネーションのような暖かい色彩が印象的です。じっと見ていると物語が思い浮かぶような秀作です。
【撮影データ】
2024年2月7日22時25分~ キヤノンEF16-35mm F2.8L III USM(17mm 絞りF2.8) キヤノンEOS Ra(ISO8000) 露出13秒 オートホワイトバランス 露出 Adobe Photoshop Expressほかで画像処理 撮影地/北海道上川郡美瑛町
【沼澤茂美賞】 鵜飼康弘 / 蝦夷づくし
【評】沼澤茂美
年々、星空風景の分野は合成が一般的になり、自己主張の強すぎる、あるいは不自然な景観を表現した作品が多くなる印象で、困惑させられることがしばしばです。そんな中で、鵜飼康弘さんの作品は、ホッとする魅力を感じました。堂々とした蝦夷富士の手前にはエゾエンゴサク、フォーカスをあえて手前に合わせてはいるものの、風景が強力に主張する描写ではありません。かといって主題が星空であることはまちがいなく、この作品が醸し出す雰囲気は、おそらく画像を大きく引き伸ばしたときに倍加するのではないでしょうか。
【撮影データ】
2024年5月4日01時45分~ タムロンSP 15-30mm F/2.8 Di VC USD(15mm 絞り開放) キヤノンEOS 6D (SEO SP4改 ISO12800) 露出15秒 オートホワイトバランス Adobe lightroomほかで画像処理
撮影地/北海道虻田郡倶知安町
【サイトロンジャパン賞】 高橋英夫 / さそり座を横切る天の川
【評】渡邉 晃
最初に見たとき、星像の小ささに非常に驚きました。拡大しても、隅々まで針で突いたような微光星で埋め尽くされていました。撮影データを見ると、シャープな鏡筒による54枚もの画像のモザイク撮影とのこと。優れた撮影技術にニュージーランドの空の好条件も加わって、圧巻の作品に仕上がっています。この作品を拡大して見ていくと、見どころが画面いっぱいに散らばっていて、飽きることがありません。CP+の会場での展示で、大きく引き伸ばした美しい本作を見るのが今から楽しみです。
【撮影データ】
2024年5月8日0時28分~ Askar FRA400(D72mm f400mm F5.6)+F3.9レデューサー(合成f280mm 合成F3.9) D36mm f100mmガイド鏡+ZWO ASI 120MMmini+ASIAIR Plusで自動ガイド ビクセンAP赤道儀 キャノンEOS-R(IR改造 ISO3200) ホワイトバランス太陽光 総露出162分(3分×54コマ) RStacker ステライメージ7 PhotoshopCCほかで画像処理 撮影地/ニュージーランド・テカポ
【U-29賞】 劉 蘇鵬 / 網状星雲西部
【評】渡邉耕平
U-29賞の対象作品は年々レベルが上がっていると感じます。その中でもとくに目を引いたのがこの網状星雲をとらえた作品です。HαとOⅢフィルターでとらえたフィラメント構造がレイヤー状に重なり合い、その立体感と繊細さの表現がみごとでした。また、南を上にした構図の新鮮さもあり、選出の決め手となりました。
【撮影データ】
2024年8月5日22時00分~ほか1夜 Teleskop Service TS-Optics ONTC8(D200mm f800mm F4)+Sharpstar 3inch 0.85X MPCC(合成F3.4) QHYCCD OAG-Mガイド鏡+QHYCCD 200M+PHD2で自動ガイド iOptron CEM70-NUC赤道議 QHYCCD 600M冷却CMOSカメラ Antlia edge 4.5nm Hα、OⅢフィルター 総露出9時間10分(Hα=5分×60コマ、OⅢ=5分×50コマ) PixInsightほかで画像処理 撮影地/千葉県柏市
【U-29賞】 柴田純平 / 飛天
【評】沼澤茂美
東天に昇るオリオン大星雲を、まるで地平座標で切り取ったような柴田さんの作品は、オリオン大星雲に連なる淡い星間ガスの輝きを効果的に配し、今までにない躍動感を醸し出しています。心に響く作品は、独創性とともに構図や配置、色合いやコントラストといった多くの要素が渾然一体となって「魅力的な雰囲気」を作り出すものですが、そのような計算では導き出せない写真の魅力を堪能させていただきました。
【撮影データ】
2024年1月13日22時23分~ Sharpstar 13028HNT(D130mm f364mm F2.8) ZWO 30F4ミニスコープ(D30mm f4)+ZWO ASI 120MM-Mini+ASIAIRで自動ガイド ビクセンGP2赤道儀 キヤノンEOS 6D(SEO冷却改造 ISO800) 総露出2時間16分(2分×59コマ+1分×15コマ+30秒×6コマ) PixInsight、 Photoshopほかで画像処理 撮影地/福岡県朝倉郡東峰村
【サイトロンジャパンカレンダー賞】
株式会社サイトロンジャパン:主催 月刊 天文ガイド:協力