昨年、サイトロンジャパンが創立60周年を記念して開催されたコンテストの第2回となる「サイトロンジャパン天体写真コンテスト2022」が開催。170を超える応募作品の中から、厳正な審査を経て決定した各賞を発表いたします。
【コンテスト総評】
審査員: 渡邉 晃
(サイトロンジャパン代表取締役)
今回もたくさんのご応募をいただきましてありがとうございました。昨年にくらべて応募総数は減りましたが、作品レベルはさらに向上し、優劣をつけるのが困難でした。撮影技術は非常に成熟した作品が多く、技術以上になにか訴えかける魅力ある作品を選出しました。入選作はCP+会場で展示予定ですが、大きくプリントした作品を見るのが楽しみです。次回もすばらしい作品との出会いがあることを期待しています。
審査員: 沼澤茂美
(天体写真家、イラストレーター)
今日の天体写真の潮流を肌で感じることができる、たいへん意義深いコンテストでした。大きなモニターで確認したときに、作品から伝わる「写真の力」「臨場感」はすばらしいものがありました。応募作品は、星雲・星団・銀河などの写真は多数枚スタックによる作品が大半でしたが、星空風景写真は合成によらない1枚撮りのナチュラルな作品が増え、星空へ対峙する姿勢が感じられて、私としてはうれしく思いました。
審査員: 成澤広幸
(星空写真家・タイムラプスクリエーター)
審査は困難を極めました。とくに星空風景以外の天体写真は撮影・処理・表現が確立されている作品が多く「どれかに絞るのがむずかしい…」というのが審査時の私の本音でした。応募作品の比率は星空風景写真が少な目だったので、次回はさらに盛り上がってほしいと感じています。多彩なテーマの応募作品に対して、正当な評価ができるよう、私自身も引き続き精進していこうと感じました。
【大賞】 大島良明 / 春は上弦
星空を堪能した厳しい冬を乗り越え、春宵の夕空高く輝く上弦の月は、私にとって体の懲りをほぐしてくれる対象です。少し眠い空の、穏やかなシーイングで見られる月面をモノクロによる赤外L画像と同種カメラのカラー画像をRGBとして合成しました。明暗の境界付近は緑の色がカブるので画像処理に苦労します。
【評】渡邉 晃( サイトロンジャパン代表取締役)
ディープスカイの天体をとらえた色彩豊かな応募作品が多い中、ともすれば月面写真は地味で埋もれてしまうこともあります。しかしながら本作品は、高い技術に裏付けられた。卓越したシャープネスの表現で抜群の存在感を放っており、満場一致で大賞に選ばれました。シャープに撮影された月面はコントラストが高くなりがちですが、本作品は精細かつ諧調豊かに月面の細部を丁寧に表現しています。平面ながらまるで立体的な実像を観ていると錯覚さえさせる傑作です。
【撮影データ】
2022年03月10日19時44分 ミードLX200 EMC(D203mm f2000mm F10.0) ビクセン コマコレクター3 R200SS ビクセンGPD赤道儀(片持ちフォークに改造) ZWO ASI174MM/ASI174MC アストロノミック ProPlanet 742 IR:1/2000秒×5000コマ×4枚モザイク UV-IR cut:1/1200秒×8000コマ×4枚モザイク モノクロ画像をL、カラー画像をRGBとしてLRGB合成 AutoStakkert3.1ほかで画像処理 撮影地:静岡県(自宅)
【準大賞】 清末友洋 / はくちょう座NGC7000 SHO合成
この領域のダイナミックさを表現したく、星雲のうねる様子をよりとらえられそうなSⅡフィルターでの画像を多めに撮影し、ほかのフィルターで撮影した画像よりも強めの画像処理を行ないました。その効果は大きく、奥行きの表現力を高めることができたように感じています。
【評】沼澤茂美 (天体写真家、イラストレーター)
今回、私が審査基準の一つとしたのが「魅せる写真」でした。それは、たとえば大きく引き伸ばして多くの人に観てもらう場合に、人の目を引きつけ、多くを語る作品はどういうものか、ということです。そうした観点から目を引いたのが清末さんの作品でした。色彩に富んだ宇宙の新しい一面を表現する手法としてSHO合成は一般化した感はありますが、構図や仕上げ、そのディティールにおいてもすばらしい作品だと思います。
【撮影データ】
2022年7月23日01時50分17秒ほか3夜 タカハシε-130D(D130mm f430mm F3.3 ※フォーサーズ換算f860mm) スカイウォッチャー EQ6R赤道儀 バーダー6.5nmハイスピードナローバンドフィルター ZWO ASI120MMMini(PHD2+APTでディザリング
撮影) ZWO ASI294MM Pro(ナローバンドSHO合成および特定色域におけるカラーシフト)Hα:露出5分×48コマ=4時間 SⅡ:露出5分×71コマ=9時間55分 OⅢ:露出5分×39コマ(13時間10分) PixInsightほかで画像処理 撮影地:和歌山県西牟婁郡・紀伊アストロスタジオ
【準大賞】 高橋英夫 / 白鳥座の星雲
明るく収差の少ない鏡筒を使い、28枚のモザイク撮影で、はくちょう座の星雲を全部まとめて作品にしました。銀河の輝度差や、北アメリカ星雲とサドル付近の星雲の微妙な色の違いを表現するために、各コマの背景の色を合わせるのがとてもたいへんでした。
【評】成澤広幸(星空写真家・タイムラプスクリエーター)
隣り合う天体をどのように構図に落としこむのか、天体写真撮影者にとってセンスの見せどころになります。モザイク合成はその可能性を広げます。FRA400の鋭い星像で丁寧に各部が切りとられた画像により、高解像で表現されています。赤カブりしやすい領域ですが、とてもナチュラルな仕上がりで、天体の細かな部分も描写されています。夏と秋の天の川の切り替わる領域であり、この画質のまま、より広く見たい…と思ってしまいました。
【撮影データ】
2022 年5 月4日23時58分ほか1 夜 Askar FRA400(D72mm f400mm F5.6) Askar FRA400用F3.9レデューサー(合成D280mm 合成F3.9)ビクセンAP赤道儀 ZWO ASI 120MM-Mini+PHD2によるオートガイド キャノンEOS R(SEO-SP4改造 ISO3200 WB/太陽光) 露出3分×3コマ×28枚モザイク 総露出4時間12分 RStackerほかで画像処理撮影地:長野県 蓼科山(7合目)
【沼澤茂美賞】 石井貴之 / 夜空にかける
そびえ立つ朽木の存在感を出すために、ギリギリまで近寄って撮影を行ないました。構図を決めたあとに流星ねらいでインターバル撮影をしていたところ、見栄えのよい流星が飛びこんできてくれました。一期一会の景色を収めることができた幸運に感謝です。
【評】沼澤茂美
審査の楽しみとして、撮影者がその作品を撮影した状況を想像し、疑似体験できる、という点があります。このすばらしい撮影環境で何を感じたのか、何を伝えたかったのかを撮影データや応募時のコメントから感じとろうと努めます。見ているうちに,時空を超えて没入するような感覚になる作品に出会えることは幸いです。石井さんのこの作品は、流星が花を添えたことは間違いありません。まさに一期一会の場面をものにした、じつにすばらしい作品だと思います。
【撮影データ】
2022年5月5日2時37分23秒 ソニーFE14mm F1.8 GM(F1.8) ソニーα7SⅢ(ISO6400 4500K) 総露出20秒 合成なし Photoshopで画像処理撮影地:秋田県由利本荘市
【成澤広幸賞】 木村洋介
/ 火星を射抜くペルセウス座流星群
夏の大三角を構図に入れて、夏らしいイメージを意図しました。連続撮影をしていたところ、火星を射抜くように流星が流れ落ち、ユニークな1枚となりました。ソフトフィルターの影響で火星が強調され過ぎてしまいましたが、この撮影では使用して正解だったと思います。
【評】成澤広幸
少しだけ風景をライトアップしてシャッターを切る、そのタイミングで流星が火星を貫きました。この瞬間をとらえられたのは,幸運だけではなく、撮影頻度によるところも大きいと思います。撮影者の努力に拍手です。構図のメインは立ち木と天の川なので、作品タイトルにもう少し工夫が必要かなと感じました。また、ノイズ低減の影響が少し強いので、程度を弱めれば全体のシャープさが向上し、さらに良い作品になると思います。
【撮影データ】
2018年08月11日23時22分 タムロン SP 15-30mm F/2.8 Di VC USD (ModelA012)(15mm F2.8) LEEソフトフィルター#1 キヤノン EOS 6D(ISO6400 WB/オート) 露出30秒 合成なし SILKYPIX Developer Studio Pro11で画像処理 撮影地:秋田県由利本荘市
【サイトロンジャパン賞】 猪瀬 裕
/ 好奇心:レンズレス・シュミット・ニュートンで
【撮影データ】
2022年6月25日01時15分 ACUTER SIGHTRON NEWTONY (D41mm f200mm F4.9 レンズレス・シュミット化改造) スカイウォッチャー AZGTi(強化改造)赤道儀モード ZWO ASI120MM-S +ASIAIRによるオートガイド ZWO ASI533MC pro (0℃) サイトロン QBPフィルター 露出 3分×25コマ(ASIAIR Plusによるライブスタック1枚データ) ASIFitsViewほかで画像処理 撮影地:茨城県(自宅)
【Sky-Watcher賞】 細川翔太 / 未改造カメラで撮影したオリオン大星雲
【撮影データ】
2021年12月31日20時03分 スカイウォッチャーBKP200/F800 OTA(D200mm f805mm F4) スカイウォッチャー コマコレクター(F4)スカイウォッチャーEQ5 GOTO赤道儀 キヤノン EOS R5(ISO 12800 WB/太陽光)露出30秒×202コマ 総露出1時間41分 合成なし PixInsightで画像処理 撮影地:福島県いわき市薄磯
【Askar賞】 北里府巳洋/ Orion’s River
【撮影データ】
2022年1月5日0時18分 Askar FRA400(D72mm f400mm F5.6) タカハシ EM200Temma 2 Jr.赤道儀 ZWO ASI120MM mini+ステラショット2によるオートガイド キヤノン EOS 6D (HKIR改造 ISO1600 WB/オート) 露出3分30秒×35コマ 総露出2時間2分30秒 PixInsighほかで画像処理 撮影地:茨城県美和村
【メーカー賞3点合評】渡邉 晃
猪瀬さんの作品は口径5cmの学習用望遠鏡による撮影です。撮影データを見て審査員一同驚きました。非常に安価な機材でここまで写せる、というのはすばらしいですね。高価な機材がなくても天体写真を撮影できることを示してもらいました。細川さんはM42を丁寧にとらえました。細川さんは昨年U29賞に入賞していますが、今作では分子雲の様子や微妙な色彩の表現など、前作にくらべて大きな技術の進歩を感じました。北里さんはバーナードループの一部をまるで赤く流れる河のように表現しました。輝星の周りのハロもこの作品では美しいアクセントになっていると感じます。
【U-29賞1】 柴田純平 / 地球に生きる
【撮影データ】
2022年5月26日03時06分 キヤノンEF24-70mm f/4L ISUSM(42mm 絞りF5.6) キヤノンEOS 5D markⅣ(ISO3200) 露出20秒 Adobe Light roomで画像処理撮影地/宮城県刈田郡蔵王町・蔵王御釜周辺
【U-29賞2】 神田聡真 / 宇宙へ
【撮影データ】
2021年8月3日23時12分 ケンコー・トキナー AT-X 11-2 0 mm f / 2 . 8 Pro DX(f11mm 絞りF2.8) Velbon ULTREK 40L ケンコーPRO1D フィルター キヤノン EOSKissX 9(ISO3200 WB/オート) 露出20秒 合成なし Adobe LightroomCCで画像処理 撮影地:長野県松本市上高地
【U-29賞3】 安田智樹 / アンタレス付近
【撮影データ】
2022年5月4日0時07分 タカハシFSQ-85ED(D85mm f450mm F5.3) レデューサーQE0.73×( 合成f327mm 合成F3.8) タカハシ90S赤道儀 +K-ASTECAMD-2 ZWO ASI 120 MMMini+ASIAIR PROによるオートガイド キヤノンEOS R(SEO-SP5 改造 ISO3200WB/オート) 露出3分×65コマ(総露出3時間15分) RStackerほかで画像処理 撮影地:島根県大田市三瓶山
【U-29賞3点合評】沼澤茂美
アンタレス付近の領域をとらえた作品は、複数の応募がありました。その中で安田さんの作品は審査員全員の支持を受けました。柴田さんの明け方の月と惑星をとらえた作品は、今春に注目されたシーンを非常にナチュラルで美しい色調にまとめ上げたところに好感を持ちました。神田さんの作品は圧倒的な好条件の星空とともに、被写界深度が伝わる、人物のボケたシルエットが、迫力と臨場感を醸し出し、たいへん惹かれるものがありました。
【U-29賞3点合評】成澤広幸
ひとえに「星空の写真」といってもさまざまなアプローチがあるということを感じさせる3作品だと思います。29歳以下の世代でこうした撮影にトライしている人がいることは非常にうれしく感じます。U29の応募作品は撮影者の熱意を感じる作品が多く,選出には非常に悩みました。一つのジャンルに縛られることなく、星空という対象を幅広い表現でとらえていってもらいたいと思います。
【サイトロンジャパンカレンダー賞】
※Player One賞:該当作品なし
株式会社サイトロンジャパン:主催 月刊 天文ガイド:協力